2023/11/28
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現代アートは敷居が高いように感じる人もいるかもしれませんが、実はとても身近なもの。
MILLPORTEでは、アートを身近に感じていただくため、現代アートのアーティスト・インタビューをご紹介しています。
今回ご紹介するアーティストはデジタルな手法で独自のアートを表現しているヌケメさんです。
ヌケメさんは1986年岡山県に生まれ、2008年に服飾の専門学校であるエスモード大阪校を卒業後に上京しました。
現在、ファッションや広告業と平行して、テクノロジーを活用した作品制作にも意欲的に取り組んでいます。
2012年には文化庁メディア芸術祭にて審査委員会推薦作品に、2014年にはYouFab Global Creative Awards 2014ファイナリストにも選ばれました。
彼の代表作であるグリッチ刺繍作品は、コンピューターミシン用の刺繍データのバイナリ情報を書き換え、針の動きに直接グリッチ(Glitch)を起こさせて独特のイメージを表現する作品です。
グリッチとは、データや機器の破損そのもの、もしくは、破損しているが再生可能なデータの状態のことを意味します。
意図的にデータを破損させ、破損した状態を出力することで普段は見慣れたイメージやロゴが鑑賞者に認識のバグを起こさせるのです。
ミレポルテmeetsアート
アーティストインタビュー Vol.6
ヌケメ
Q:グリッチを使って表現する思いというか、当初はどういった感じだったんでしょうか。
ある程度グリッチに任せる部分と、自分がまずそういうお膳立てをする部分があるのですか?
それをなおかつ、ファッションというバックグラウンドの中で何かしていくということですよね。
A:そうですね、お膳立てと任せる部分が半々ぐらいというイメージです。
お膳立てする部分っていうのは、例えば作品で使っているスヌーピーだったりチャーリーブラウンだったり。
ただ、それがどう壊れるか、最終的にどういう表現になるのかは、データの壊れるままに任せているっていう。
なのでいつも「どうやって作ってるの?」って聞かれるんですけど、どこまで説明してもあまり伝わっている気がしなくて。
感覚的には、サイコロを振り続けているみたいなのが結構近いです。
何百回もサイコロを振って、この出た目にしようっていう、最終的なところだけピックアップしているイメージです。
Q:なるほど、そうすると制作している楽しさっていうところにもつながってきますよね、自分自身がゾッとするっていうのは。
A:グリッチを扱っていると、自分が想像していなかったものが出来上がるんです。
それは凄く楽しい部分です。
Q:ヌケメさんは作品制作の際にアーティストとして何にインスピレーションを感じて作品を生み出しているのでしょうか。
グリッチ刺繍の場合はプログラミングのグリッチとか予測できない要素が入ってくると思うんですけれど、そういう偶然にインスピレーションなど感じていますか。
A:なかなか難しい質問ですね。
もともと僕はファッションを勉強していたので、ファッションから受けるインスピレーションというのがすごく大きいんですけど、洋服ってこう、ぐるぐると流行が回ってくるというか。
何回も80年代が流行ったりとか、何回も90年代が流行ったりとか、螺旋状にくりかえしながら、ちょっとずつ前に進んでいくというものがあると思うのですけど、あるときそれがちょっと嫌になった時期がありました。
結局は同じことの繰り返しかなと思っていた頃に、メディアアートとかインターネットアートというものに出会って。
つまり、プログラミングを介したようなアート作品であったり、新しいテクノロジーと並走して生まれてくる表現みたいなものです。
iPhoneがあるからできる作品であったり、VRで表現できる作品っていうものは、歴史上でも過去にはなかったものじゃないですか?
過去になかった技術の上で新しく立ち上がっている表現ってものが、ジャンルとしてあることに新鮮な印象を受けたんです。
ただ、自分はプログラミングとかをやっていたわけじゃなくて、先ほども言った通りファッションをやっていました。それで自分がやってきたファッションのテクニックと、そういうテクノロジーの進化とともにある表現を、なんか結びつけられないかなと思っていた時に、刺繍ミシンのグリッチっていう表現と出会った形です。
Q:制作する時に心がけていること、サイコロを振り続ける中で「ここだ!」っていうのは何かポイントがあるんでしょうか。
A:これは今後変わる、変えていこうと思っている部分でもあるんですけど。
今はサンプリングしたモチーフを使っているので、パッと見た瞬間に、壊れてることも分かるし、同時に、元がどんな形であったかも分かるっていう、中途半端な状態にすることを結構意識していて。最終的にピックアップする時に、そういうものを選んでいるんです。
ただ、グリッチっていうプロセス上、何百個もいろんなバージョンの壊れを作ってその中から選ぶんですが、元の形がなんだかわからないようなパターンも存在しているんですね。
それは僕が没にしちゃっているので、今のところ表には出てきていません。
そういう没の作品も、いつか見せてみたいなとは思っています。
不思議なもので、ほんの少しの差で、元がなんだったのか分かんなくなるラインみたいなものがあるんです。
認知の問題というか、ゲシュタルトの話だと思うんですけど。壁のシミが人の顔に見える、みたいな。
それが人の顔に見える場合と、見えない場合の差があるわけで、僕はそこに面白みを感じているんです。
Q:そういう時に大切にしている要素というか、「作品はこれ!」っていう時に大切な要素または決めてみたいなのはあるんでしょうか。
自分の中でのエステティックというか美意識に触れるとか、偶然に出たものでどういう要素を大切にしているんでしょうか
A:そうですね、エステティックなものはあるんですけど、あんまり言語化ができていなくて。
それはかなり、自分にとってのフェティッシュな感覚だと思っています。
特に、ロゴを扱った場合よりも、キャラクターを扱った場合に顕著だと思うんですけど。
スヌーピー、キティーちゃんだったりっていうのを、僕は架空の存在であり、生き物だと思っているので。それが壊れているわけですよね。表情としては笑っていても、存在としては壊れている。
その壊れの具合に結構こう、ゾクっとする、ゾッとする感覚を持つことがあって。
そのゾッとする度合いみたいなものが、僕にとって、エステティックな部分かもしれないです。
Q:話は変わりますが、影響を受けたアーティストとか、ムーブメントとかあればお聞かせください
A:先ほども話に出ましたけど、ネットアートとかメディアアートとかからは僕は強く影響を受けています。
直接的にはucnvさんっていうアーティストがいて、僕のグリッチの先生です。
あとは、つい最近日本に久々に帰ってきてましたけど、エキソニモっていう今ニューヨークで活動しているユニットです。
90年代からネットアートをしていて、かなりキャリアの長い作家です。
あと、ポストインターネットアートと呼ばれている作家達からもかなり影響を受けましたし、同世代的なシンパシーをすごく感じていました。
Q:先ほど新たなこともやりたいみたいな話もありましたが、最近関心のあるテーマとかはありますか。
新たな取り組みとかは、ありますか
A:そうですね、ずっと取り組んでいる新作はあります。
結構、フェティッシュなものに僕はずーっと関心があって。
マイノリティーな性的趣向だったりとか。
フェティッシュ、いわゆる直接的なセクシャルじゃなくて、なんかもっと物自体に対して惹かれるような、そういう感覚にはずっと興味があります。
それで、そういうものを抽象的に表現できないかなとは思い続けています。
なんか、結構宗教的だなって。
物に対する畏怖や信仰みたいなもの、そういう部分があると思います。
他人から見ると、どこまでいっても意味がわからないというか。
たぶん本人からしてもそうなんだと思いますけど。
欧米で有名なヘンテコ性癖だと「ドラゴンカーセックス」というのがありまして、でかいドラゴンが車を犯すっていうフェチがあるんですけど、本当に意味がわからない。
解釈しようとすると、車って言う男性社会の象徴を、さらに大きなドラゴンが犯すっていう倒錯だとはよく言われています。
でも、どう説明されても究極的には何がなんだかよく分からない。
それに興奮する人が実際にいるわけで、人間って本当におかしいなって思います。
ある種の自殺願望でもあるっていうか、自分を壊してしまいたいという何かにも思えますね。
Q:ところで、今はインスタなどSNSが日常的になってきていますが、アーティストにとってどのような影響を与えているでしょうか?
今やアーティストが直接発信出来てしまう
A:アーティストに限らず、インターネットというか、全部のスピードが上がってしまっているっていう風に僕は感じています。
それは時速40キロで運転しているつもりの車が、いつの間にか120キロになってた、みたいな話です。
つまり、目的地には早く着ける。けれども事故った時に助からない。
いきなり有名にもなれるけど、炎上してしまうと再起が難しい。
誰もコントロール出来ていないんだろうと思います。好きなんですけどね、インターネット自体は。
Q:ヌケメさんはまさにそういう中で表現していると思いますが、これからも何か新しい表現が生まれそうな気がしますね。
A:うーん、どうなんでしょうね。
みんなAIでいろいろやったりはしていますが…仕事がなくなるとかはよく言われてますよね。
ファッションモデルとか、仕事なくなるんじゃないかって思ってますけどね、すでにジェネレートされつつあるので。
フェイクニュースも凄いですね、ディープフェイクとか。
フェイクかどうか判定させるAIを作ろうみたいな話もありますよね。
Q:なるほど、最後にこれはジェネラルな質問というか、以前と違ってインターネットとかいろいろ増えている中でアーティストとしてアートにはどんな力を感じますか。
A:これもすごく難しい質問で、ずっと考えていたんですけど。
自分にとって、っていう話で言うと、アートって人生の寂しさと向き合う一つの方法みたいな、そんな感覚があって。
孤独っていいもんだな、って気持ちになることが割と多いんです。
別にアートに限らず、映画だったり、漫画だったり、誰かと一緒にいたとしても、鑑賞体験としては一人なので。アートを見ている時間っていうのは、人生の無意味さと向き合っている時間なんですよね、自分にとっては。
僕の作品の持っているちょっとした暗さみたいなのは、こういう感覚が出てるんだと思います。
寂しさ、みたいなのが自分の中心の方にある感覚なのかもしれないですね。
なるほど、大変よくわかりました、この度は貴重なお話をありがとうございました!